
イースター、それはキリストの復活の日、キリスト教において最も重要なお祝いの日です。無宗教者が多いとはいえ、チェコでも伝統的にイースターは盛大にお祝いされています。というのも、この地域・民族に昔からある『春の到来をお祝する祭り』にキリスト教のイースターが入ってきて結びついて、現在の形になっているためです。宗教色はどちらかというと薄いですが、伝統的にやること・食べるもの・飾るものなど特色がある、そんなチェコのイースターの世界についてご紹介します。
まずは一般的な「イースター」について、ざっくりと説明します。ご存知の方は、チェコのイースターからどうぞ。
イースターはいつ?
実はイースターは毎年日付が違います。というのも、『春分の日の後の最初の満月の次の日曜日』と定められているからです。満月の日が毎年変わるので、イースターも変わるというわけです。
何をする日?
キリスト教について詳しくない方でも、イエス・キリストが十字架に架けられて三日後に復活した、というストーリーは聞いたことがあると思います。その復活した日がイースターになっていて、イエス・キリストの復活を祝う日なのです。
イースターのシンボルのアレの意味は?

イースターのシンボルといえばまず卵が思い浮かびますね。
なぜ卵なのか、ということですが。卵は動かないものから生命が生まれるものということで、死と復活を象徴しているそうな。
伝統的にキリスト教では、イースターの前の40日は食事の節制をして祈りを捧げようという期間があり、肉・乳製品・卵を禁じました。イースターではそれらが解禁になるので、やったーお祝いだ!食べよう!ということで食卓が華やかになります。卵も久々に解禁されるもののひとつです。
ほかにも、うさぎもよく登場するモチーフです。
うさぎは多産なので豊穣の象徴とされています。しかしこれが定着したのは最近で、16世紀ー17世紀ということです。
ここからチェコのイースター
ここから本題!
チェコにおいてイースターは、キリスト教のお祝いという意味はもちろんあるのですが、先ほども書いたように、ヨーロッパでは珍しく無宗教者の多いチェコ。なぜこんなに盛り上がるのか?というと、もともとゲルマン民族(ドイツとか北欧とか)とスラブ民族(チェコとかロシアとか)には春の到来を祝う習慣があり、そこに後からイースターという文化が入ってきてうまく融合した・・・という形になったからです。
チェコ語ではVelikonoce(ヴェリコノツェ)
といいます。
Velké(ヴェルケー=大きな)
noci(ノチ=夜)
から来ている言葉です。velkéはキリスト教の祝日という意味を表しており、夜は祝日の始まりを意味しています。
本来宗教の上では、イースターは前日の日没つまり夜から始まります。(同じく、クリスマスも、クリスマスイブの夜から始まります。)だから、夜とついているという訳です。
チェコでは、イースターの前の金曜日、そして後の月曜日も祝日となっており、春の大きな4連休!ヤッター!
なんなら前後に有給でもとっちゃって、実家に帰って家族でのんびりゆっくり過ごそうか〜、てな感じの祝日になっています。クリスマスに続いて、家族で過ごすための休暇というイメージです。
イースターの象徴
子羊(Beránek・ベラーネク)

キリスト教で、イエスキリストを象徴しています。チェコでは、子羊型の焼き菓子(クグロフみたいなもの)を焼きます。
卵
新しい生命を象徴しています。チェコでも各家庭で伝統的に色をつけたり、絵をかいたりします。美しく装飾された卵は、この季節のお土産品としても販売されています。
実際のところどんな感じ?
チェコでも日本と同様、大きなイベントは商業的にも美味しい、重要なコンテンツですので、お店というお店はイースターを全面的に押し出して販促しています。イースター仕様のパッケージになったり、お店のディスプレイが卵モチーフになったり、もちろんイースターに必要ないろいろなグッズが店頭に溢れます!

それまで長い長ーい冬を過ごし、そろそろ厚着にも疲れてきたなって雰囲気が、一気に春の色になります。見た目にも気分的にも明るくなれるイベントです。
(ちなみに、チェコの入学入園は9月ですので、この時期特に他のイベントもありません。まさにイースター一色!)
イースターマーケットも大盛況。観光客にも、地元の人にも。


家庭ではイースターに食べる料理の準備をしたり、家の中や庭を飾りつけたり、卵をデコレーションしたり、クリスマスほどではありませんがやることはあれこれあります。家庭の母は大忙しですね。後述する、ポムラースカという鞭による伝統的な儀式(!?)も非常にポピュラー。
もちろん、敬虔なクリスチャンは熱心に教会に通う日(期間)であることは言うまでもありません。
鞭でお尻を叩く儀式!?
イースターの次の日の月曜日には特徴的な伝統があります。
それは、男の子が女の子のおしりを手作りの鞭で叩くというもの!
なんてハレンチな!?
いえいえ・・・これこそがチェコのイースター!これ無しにイースターは語れません!
鞭は柳で編まれていて、先にカラフルなリボンがついていることが多いです。チェコ語でPomlázka(ポムラースカ)と言います。

叩くときに歌う歌もあります。
Hody, hody doprovody, dejte vejce malovaný, nedáte-li malovaný, dejte aspoň bílý, slepička vám snese jiný…”
お祭りだ、さあ色付けをした卵をおくれ、色付けしたものが無いなら、少なくとも白いものをおくれ、鶏がまた新しいのくれるよ・・・
なんのために叩くか?今ではあまり意味を考えずに行われています。伝統ってそんなもんですね。
男の子が、女の子への興味の象徴とも言われていて、叩かれていない女の子は気分を害するかもしれない・・・そうな。年頃の男子女子にとってはそわそわするイベントでもあるのでしょうか。
『イースターでお尻を叩かれた女の子は、一年中健康でいられる』とも言われています。ポムラースカという言葉は、pomlazení(ポムラゼニー=若返り)という語からきているという説とも繋がっているようです。
素材の柳は、生命力の象徴でもありますから、男性は自分の生命力を女性に与え、女性はお礼に新しい生命の象徴である卵を与えるという。
女子は叩かれっぱなしかい!と異議を唱えた人が昔からいたのでしょう、一部の地域では、午後に女性が「報復」するそうです。バケツで冷たい水をバッシャーーン!とやるんです。その地域の女性は、よっぽど強かったのでしょうね!
イースター前の街中では、大小様々なポムラースカを抱えたおじさんから青年、小さな男の子までよく見かけ、伝統を大切にしていていいなあと感じたものです。

イースター期間の毎日はどんな感じ?
チェコの一般的な感覚でイースター期間は水曜日から始まります。その日その日に名前がついているのでその意味と、伝統的に行われることを紹介していきます。
灰色の部分は、厳格な(キリスト教的な)イースターの日の解説、それ以外の部分はチェコでの一般的な過ごし方を書きます。
Škaredá středa(シュカレダーストシェダ=醜い水曜日)
この日に煙突の掃除をしていたためにこの名前がついたそうです。
「この日に顔をしかめてはいけない、次の年のすべての水曜日に顔をしかめることにならないために」と言われています。キリスト教の話でいうと、イエス・キリストを売った裏切り者ユダが「顔をしかめて」いた日です。
じゃがいも等、質素なものを食べます。
Zelený čtvrtek(ゼレニーチトブルテク=緑の木曜日)
この日の夜から日曜日の夜の3日間が、イースターの『核』。クリスチャンはキリストの最後の晩餐を記念し、礼拝で老人の足を洗う習慣も守られています。
緑の木曜日といいますが、もともとこの日に緑という意味はないそうです。ドイツ語でこの日を指す言葉が変化して、チェコ語で緑になったとか。
今では緑の意味合いが強く影響し、春の野菜や豆類を食べるとよいとされています。kopřiva(コプシヴァ)という草やパセリをつかったパンケーキなど。Jidáše(イダーシェ)という縄の形を模したパンも人気ですね。
他にも人気のメニューは
kočičí tanec (コチチータネツ=猫の踊り)レンズ豆とひき割り麦の煮物
Šumajstr インゲン豆とひき割り麦の煮物
Pučálka 発芽エンドウの煮物
などがあります。
また、緑のビールなるものもこの期間だけのお楽しみです。こちら着色料を使用しているのではなく、特別なホップを使ってこのような色を出しているそうです。

Velký pátek (ヴェルキーパーテク=聖大金曜日)
キリストが十字架につけられた日とされている日で、キリスト教的には暦の上で最も重要な日と言えるでしょう。キリストの死を思い祈る日です。
朝から水浴びをして、身を清める信徒もいます。キリストの受難を想起させるというので、この日の畑仕事や土いじりも禁止されていました。
カレンダー上で祝日になる日その1です。
この日は本来、断食です。
といっても魚はOKで、魚が買えないときはじゃがいもの生地を魚の形で焼いたそうです。そんなゆるさがチェコ流。
食事も一回だけ。いちばんよくあるのは、ザワークラウトとじゃがいものスープです。そのほかに食べるとしても、通常家にあるような食材だけで済ます、という習慣だったそうです。
Bílá sobota(ビーラーソボタ=白い土曜日)
教会で礼拝が行われない、唯一の日です。深い悲しみの日です。日没後から、教会に白いローブを着て集まるため、白いという名前になりました。
食事は少し豪華になります。mazanec(マザネツ)やbochánky(ボハーンキ)といった焼き菓子・パンをつくります。またnídivka(ナーディフカ)というミートローフのような料理もよく食べられます。
Boží hod velikonoční - neděle(ボジーホド ヴェリコノツェ - ネデェレ=イースターの神の時)
イエス・キリストが復活した日で、クリスチャンにとっては最も重要で厳粛な日です。クリスマスよりも重要です。ここで40日間の断食が終わり、ようやくたくさん食べることが出来るようになります。
伝統的に子羊、子牛が食べられました。それらが手に入らない家庭は、子羊の形をした焼き菓子を食卓に並べたそうです。この焼き菓子が今や、イースターを象徴するお菓子として、スーパーでドドン!と売られています。
Velikonoční pondělí (ヴェリコノチュニーポンデェリー=イースターの月曜日)
この日は教会とは関係がありません。が、カレンダー上で祝日になる日その2です。
もはやキリスト教と関係ないのに、イースターの祝日としてカレンダーにしてしまっているあたり、チェコではいかにキリスト教が主軸になっていないか、が感じられますね。
この日は、民族の伝統を行う日です。先述したポムラースカが登場するのはこの日。装飾した卵も、この日までに用意しておかなければなりません!
食事としては、卵の日です。カラフルに装飾した卵はもったいないですが食べてしまいましょう。二人で卵を持ってゴツンとぶつけ合い、割れなかった方の勝ち〜というゲームもします。
・・・
ここで紹介した、宗教の伝統も民間の伝統も、すべてこなしている家庭はごくごくごく稀です。また地域によっても伝統や習慣は違ってくるものです。
一般の家庭では、目玉になるところをピックアップして生活に取り入れています。やること準備すること等色々とあるのですが、何より重要なのは、家族で一緒にいるということ。それが、チェコのイースターの過ごし方です。
以上、チェコのイースターについて紹介致しました。
日本人としては馴染みのないイベントですが、チェコ人も適度に宗教を取り入れ、春の到来を喜んで楽しんでお祝いしてるのだなという雰囲気が伝われば、嬉しいです。